健康コラム
Healthcare Column.

脳と免疫の不思議な関係

「病は気から」ってただの精神論だと思っていませんか?
実は、あなたの「心」と「体」そして「免疫」は思っている以上に密接につながっているのです。

「プラセボ効果」と「ノセボ効果」。心の科学が現実に

かつて「病は気から」という言葉は、経験的な言い回しにすぎないと受け止められ、医学の世界では軽く扱われることも少なくありませんでした。ところが近年、脳画像研究やホルモン測定技術の進歩によって、心の状態が脳や免疫の働きに影響を与えることが具体的に示されるようになりました。

その代表例が、医療現場でもよく知られている「プラセボ効果」と「ノセボ効果」です。
信じる力や不安の感情が、実際に体調や免疫反応にまで影響を及ぼすことが、科学的に裏づけられつつあるのです。

こうした研究の積み重ねから生まれたのが、「PNEI(精神神経免疫内分泌学)」という新しい学問領域です。これは、心理(心)・神経(脳)・内分泌(ホルモン)・免疫という四つのシステムが互いに連携し合い、健康や病気に大きく影響していることを解き明かすものです。

たとえば強いストレスを受けると、自律神経やホルモンの分泌が乱れ、それが免疫細胞の働きにまで影響を及ぼします。逆に心が落ち着き安心感を得ると、脳から分泌される神経伝達物質が免疫を活性化させ、病気への抵抗力が高まることがわかっています。

つまり、心の在り方は単なる気分の問題ではなく、全身の健康を左右する大きな要因といえます。
PNEIの研究は、「心の科学」が医学の中で確かな地位を築きつつあることを示しているのです。

(ちょっと解説) プラセボ効果とノセボ効果

◎プラセボ効果
有効成分を含まない備業を「効く」と信じることで症状が改善する現象です。最近では、その安心感や期待が脳を介して神経伝達物質やホルモンを分泌させ、体を整える仕組みとして治療に活用され始めています。

◎ノセボ効果
「副作用が出るかもしれない」と不安に思っただけで、本当に吐き気や頭痛など様々な体の不調を実際に引き起こす現象です。

脳内免疫細胞「ミクログリア」の発見

PNEI研究が進むことで「心と体のネットワーク」を解き明かす中で、注目されているのが「脳内免疫」の存在です。長い間、脳は血液脳関門というバリアによって外部の免疫細照が入り込めず、「免疫が働かない特別な臓器」と考えられてきました。

ところが最新の研究で、脳には「ミクログリア」と呼ばれる常在免疫細胞があり、健康維持に欠かせないことがわかってきました。かつてミクログリアは炎症を引き起こす悪い細胞と考えられていましたが、現在では老廃物や異常タンパク質を取り除く免疫としての役割が明らかになったのです。

さらに興味深いのは、この細が記憶や感情にも関与している点です。研究によって、ミクログリアの状態が学習の効率や気分の安定を左右することが明らかになっています。脳にある免疫細胞それ自体が学習や心の働きと直結している。まさに「不思議な関係」を示す発見といえるでしょう。

新しい健康維持と治療の形

PNEIの研究によって、睡眠や深呼吸、音楽、自然の中での散歩といったシンプルな行動が、ストレスを軽減し免疫を整える理由も科学的に裏付けられるようになってきました。
つまりこの学問は「病気になってからの治療」だけでなく、「病気を防ぐこと」や「日々の健康維持」に心を整えることが久かせないと示しているのです。

日常を振り返ると、気持ちが前向きなときは心も体も軽く、風邪をひきにくいと感じた経験は誰にでもあります。反対に、不安が続くと胃腸の不調や肩こり、睡眠の乱れとなって表れることがあります。 こうした実感こそが、心の状態が神経やホルモンを介して免疫に影響し、体調に映し出されるという科学的事実です。心と体が見えない糸でつながっている、身近な証拠といえるでしょう。

脳と免疫の連携が心と体の健康を底上げする

近年の研究で、その仕組みはより明確になってきました。脳のミクログリアは神経回路を見守り老廃物を掃除し、異常があれば修復を助けますが、強いストレスが続くと炎症を起こし、逆に悪影響を及ぼしてしまいます。 ミクログリアの働きが安定していれば、情報処理や感情のコントロールが整い、落ち着いた思考や前向きな気持ちが生まれます。その心の安定は免疫力の強化に直結し、体を病気から守る力となります。

これまで免疫や心の分野で注目されてきた「腸脳相関」が一歩進み、腸の仕組みだけでなく脳の仕組みも詳しく解明されることで、体の様々な部分が双方向に情報をやり取りし、心の状態がどう影響するのか、より明確となってきたのです。

こうした新しい知見は医療にも広がり、欧米では瞑想や呼吸法を取り入れたストレスマネジメントが補助療法として導入されています。未来の医療では「心を整えること」が治療と並ぶ柱になるかもしれません。
大切なのは特別なことではなく、日常の中で心と体を整えようとする工夫です。睡眠はもちろん深呼吸、音楽、自然の散歩、他愛のない友人との会話。そんな時間は、脳と免疫の連携を助け、体全体の「生きる力」を底上げしてくれるのです。

脳内免疫を高める3つの方法

1.質の良い睡眠
睡眠中、脳の免疫細胞ミクログリアは老廃物を掃除し、神経回路を修復します。毎日同じ時間に寝起きする習慣は体内時計を整え、この脳内免疫の仕組みを安定させます。昼間に光を浴びるのも効果的で、逆に寝る前のスマートフォンは免疫バランスを乱す要因になります。

2.笑いとユーモアを日常に
笑うことで感染防御を担う NK細胞の働きが高まることはよく知られています。これは笑いによって脳内で分泌されるドーパミンがミクログリアの過剰な炎症反応を抑えると考えられ、その結果、脳環境が安定し、自律神経や免疫バランスが整うためです。反対に怒りが続けば、炎症や老廃物が増え、免疫は乱れます。

3.マインドフルネス
マインドフルネスとは、体と心の調和を意識しながら「今この瞬間」に集中を生み出すトレーニングです。特別な準備は不要で、朝の深呼吸、歩くときの足音に注意を向ける、食事の味をゆっくり感じる。そんな小さな実践から始められます。続けることで脳が落ち着き、自律神経や免疫の安定につながります。

※当記事は弊社発行誌『イキイキ生活通信』に掲載された内容を改編・再載しております。

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