がんと聞くと、誰もが不安や恐怖を感じるでしょう。しかし、がん治療は長い歴史の中で確実に進化を遂げてきました。
これまでのがん治療の柱は、「手術でがんを取り除く(手術療法)」、「抗がん剤でがん細胞の働きを抑える(化学療法)」、「放射線でがん細胞を焼く(放射線療法)」という、いずれもがんを取り除くアプローチでした。
しかしこれらの方法は強力ですが、正常な細胞にダメージを与えるという課題がありました。そこで注目を集めているのが、「免疫療法」です。
免疫療法は、自分自身の免疫細胞ががん細胞を正確に見つけ出し、攻撃する力を高める治療法です。
もともと体に備わっている立て直す力をじ、免疫力を高めてサポートする。そんな新しい治療法として期待されています。従来の化学療法などに比べて副作用が少ないことも特徴で、近年特に注目を浴びています。
免疫療法は今や、手術・放射線・化学療法に次ぐ「第4のがん治療」として広く選択されるようになりました。
その世界的な普及の礎を築いたのが、ノーベル賞を受賞した二人の日本人研究者12018年の本庶佑先生と、2025年の坂口志文先生です。
2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生(京都大学名誉教授)は、免疫の働きを大きく前進させた研究者です。先生が発見した「PDー1」」は、体が自分を攻撃しないための安全装置ですが、がん細胞はこれを利用して免疫の攻撃を逃れていました。
本庶先生はこの仕組みを解き明かし免疫のストッパーを外す薬「ニボルマブ(オプジーボ)」の開発につなげました。免疫細胞が再び力を発揮し、自らがんと戦えるようになったことで、治療の新たな道が開かれたのです。現在オプジーボは、皮膚がんや肺がんなど多くの治療で成果を上げています。
一方、2025年に受賞した坂口志文先生(京都大学高等研究院特別教授)は、免疫の暴走を抑える「制御性T細胞」を発見。免疫は過剰に働くと自己免疫疾患やアレルギーを起こしますが、制御性T細胞はそれを抑えて体のバランスを保ちます。
坂口先生の研究は免疫の働きを調整し、がん以外にも様々な難病を治療する新たな可能性を示しました。
2人の研究が導いたのは、人が本来持つ「治る力=免疫の働き」を最大限に高めるという、安心かつ新しい医療の形です。
免疫療法は正常な細胞も傷つける抗がん剤や放射線治療と違い、自分の免疫細胞を活性化させ、腫瘍の害を弱くしていく治療法です。直接的に体を傷つけず副作用が少ないとされています。
●免疫チェックポイント阻害薬
免疫にかかったストッパーを外し、がん細胞を敵として認識し続けられるようにすることで、免疫の攻撃力を回復させる薬を用いた治療法です。
● イマチニブ
白血病治療薬「イマチニブ(グリベック)」に、白血病細胞だけでなく、免疫を弱らせる原因となる細胞も攻撃してくれることが明らかに。
● Treg細胞療法
患者自身の細胞を生体外で増殖させ、体内に戻して免疫機能のバランスを正常化させる治療法。
● CAR-T細胞療法
患者自身の免疫細胞を遺伝子改変して「がん細胞を攻撃する能力」を極限に高め、体内に戻す治療法。
● 光免疫療法
光に反応する薬剤を使用し、がん細胞に結合させた後、特定の波長のレーザー光を照射することで、がん細胞を直接破壊する治療法。
医療現場では、「がん=不治の病」という時代はすでに過去のもの。早期発見技術の進歩に加え、手術・放射線・化学療法の精度も格段に向上し、かつては難しかった治療も可能になりました。
しかし一方で、がんの死亡者数や、これまでなかった新しい症例が増えているという新たな現実もあります。
その背景には、人口の高齢化、そして皮肉にも検査技術の進化による発見率の増加があります。つまりより多くの人や場所からがんを「見つけられるようになった」と言えるのです。
そのため近年では、「がんをとる」選択肢だけでなく、「がんの悪影響を抑えながら共に生きる」という治療スタイルも広がってきています。そこの鍵を握るのが免疫の力。がんや病の症状ごとの最適な免疫バランスを作り出せれば、体に負担のかけずにQOL(生活の質)を維持できるのです。
免疫療法が目指すのは、病気を根治することではありません。長年がん治療の課題だった「転移の予防」や「臓器移植の成功率向上」など、これまでの医学では難しかった領域への応用です。
同じ病気でも、薬の効き方や副作用の出方は人によって異なります。患者一人ひとりの体質や免疫の働き、遺伝的特徴をもとに最適な治療を選ぶことを「パーソナライズド医療(個別化医療)」と呼びます。免疫療法は、この新しい医療の考え方の中心的な役割を担う技術です。
患者ごとの免疫がコントロールできれば、手術や薬に頼らず、体への負担を抑えながら健康を維持することが可能になります。これからの医療は、免疫の力を生かし、一人ひとり自分らしく生きる方向へと進化していくのかもしれません。
※当記事は弊社発行誌『イキイキ生活通信』に掲載された内容を改編・再載しております。
[戻る] / イキイキ生活通信読み物一覧へ