酒井和夫先生のメンタルケアコラム
第十七回

急増する「介護うつ」について

介護する側の心の病としての「介護うつ」について教えて下さい

酒井先生(以下酒井) 介護うつというのは、大きく言うと適応障害のことです。たとえば会社に入って、人間関係がうまくいかない、それにより仕事にも支障がでる、といった場合は会社を変えれば治りますが、対して介護うつは、基本的に介護する人を取り巻く環境はそう簡単に変わるものではないので、原因が取り除けない以上治療が非常に難しいうつだと言えます。

自分自身や家庭が幸せであっても介護うつにはなるのです。仕事で例えると、経理関係の人は、予算の時期は寝られないほど忙しいけれど、それが終われば楽になると思うから乗り越えることができます。でも、介護というのは次第に悪化することの方が多いわけですから、時間がたてばたつほど楽になるのではなくて、どんどん辛くなっていきます。人間の心がその辛さに耐えられないのではないかと思います。

世間的にも介護するのは当然というプレッシャーがありますね

酒井 ここまで長寿社会になったのはほとんど最近のことで、親の面倒をみるといっても江戸時代の平均寿命は40代でしたから現代のような老老介護ではなくて、70代まで長生きできる人は栄養状態のいい裕福な人に限られていたと思います。

ですから、現代のような高齢者の介護を高齢者がするというのは人類の歴史上で初めてといっていい体験でしょう。それだけに、うまくいかないことや葛藤が生じるのは当たり前だ、という認識を社会全体が持つべきです。そう思って取り組まなければ、理想や道理ばかりが先行し、介護者は大きな心の負担を強いられることとなります。

人間が逃げようのない過度のストレスを強制されて、それが爆発するというのは、過去の歴史上の事例にあるような、過酷な労働を強制された人の環境と似ていると判断してもらうといいでしょう。

ですから、介護をしている人がいろんな辛い感情を受けて、うつ状態になったり、介護の手を抜いたりすることなどは人間の心の動きとして自然のことで、決して責められない。個人の一例一例に過敏に反応するより、全体として構造をどのように変えたら負担が減るのか、介護している本人に周りの人は何ができるのかを考えなければなりません。

具体的にどのような対策が必要だと感じられますか?

酒井 私は年老いている人、介護が必要な方は、赤ちゃんと同じだと社会全体が感じるようになるべきだと思います。赤ちゃんと言うのは全世界においてすごく貴重なわけで、みな等しく可愛がり当然社会的サポートも厚い。それと同じように高齢者全体を皆がケアするというコンセプトに社会がシフトしないと解決しないと思うのです。

そして、これは現実的に行動をすぐに起こさなくてはいけませんね。老人介護の問題は子供の問題と同じになっていると思うのです。

現に、保育所は今、都会では不足しています。冷静に考えるとおかしいですね。今の人口構成比で少子化といっておきながら保育所が全然足りない、そして多数は作れないと……。老人ホームは順番待ちで、自分で身の回りのことができない高齢者はよほどのお金持ちでないと老人ホームに入れない。私にはこの2つの問題が同じ様に見えるのです。両方とも悩むことでなく、当たり前のように社会が大切にしないといけないものであるはずです。

今後介護うつが増える中でどんなケアを行えばよいでしょう?

酒井 社会の介護うつに対する見方を変えることも重要です。現代は老人虐待をする人、介護によって心を病む人を単に個人の人間性の問題と捉えている。しかし、そういったうつや虐待は病気とは見られない場合が多いですし、何より当事者本人が罪悪感で病院には行きません。

また、今の精神医療の体制では子供たちの心の乱れをつかむことはできても、50代の人たちの精神的な乱調は把握しづらいのが現状です。それこそ個人で何とかしようとしてもできないくらいに、これから介護による心の問題はますます増えていくでしょう。しかし、それを精神科だけでキャッチすることには限界があります。

現に、保育所は今、都会では不足しています。冷静に考えるとおかしいですね。今の人口構成比で少子化といっておきながら保育所が全然足りない、そして多数は作れないと……。老人ホームは順番待ちで、自分で身の回りのことができない高齢者はよほどのお金持ちでないと老人ホームに入れない。私にはこの2つの問題が同じ様に見えるのです。両方とも悩むことでなく、当たり前のように社会が大切にしないといけないものであるはずです。

そこで私が期待するのはサプリでのケアなのです。心や身体の健康寿命両方を延ばすために、サプリは非常に効果的であると思います。

ただ、最近、健康食品の市場で政府が販売促進を牽制する動きが出ていますが、それが過多になりすぎると、ちょっとバランスを欠くのでは?と思うのです。たまに酷い業者もありますが、多くの会社は真面目によい物を提供していると思います。

健康に貢献するためのサプリの見極め方が大事ですね

酒井 サプリで健康寿命を延ばしていい晩年を送れれば、医者にかからなくてすみますし、それが一番ですね。実際、長生きとはすばらしいことで、90歳過ぎて介護をうけながらも笑顔で過ごされている患者さんを往診に行くと、私自身幸せに思います。ですから寿命とあわせて健康寿命が延びていってくれればいいなと思います。

PROFILE

精神科医 酒井先生のプロフィール

1951年東京生まれ。東京大学文学部卒業、筑波大学医学研究科博士課程修了。
精神科医、医学博士、日本医師会認定産業医、臨床心理士。

現在、ストレスケア日比谷クリニック院長。おもに心身症、摂食障害、気分障害(うつ病)、強迫性障害などの治療に従事。

目次(全20回)
第20回 「悩みを抱えた子ども達の食生活は見直す必要があります」
第19回 「ビジネスパーソンのための自分で実践できるメンタルヘルス対策」
第18回 「心と心が通い合う。その第一歩は円満な家庭から始まります」
第17回 「急増する『介護うつ』について」
第16回 「睡眠の質と眠りのコツ」
第15回 「子育てのストレス」
第14回 「老人性うつの要因と対処法」
第13回 「うつ状態を防ぐために」
第12回 「更年期を乗り切る」
第11回 「引きこもりについて」
第10回 「育児ストレスの対処法」
第09回 「サンタクロースって本当にいるの?あなたならどう答えますか?」
第08回 「子どもの心とシンクロできる親のインスピレーションを磨く。」
第07回 「子どもたちの健全なこころの育成は大人たちの健全な精神生活にある。」
第06回 「親の考え方が柔軟になれば子どもも自ずと夢を描ける。」
第05回 「子供が抱える悩みは親の抱える悩みと共通しています。」
第04回 「未来から現在を見る。その視点が明るい未来を切り開きます。」
第03回 「親の健康が子供の心を育む。食生活はなによりも大切です。」
第02回 「心と心が通い合う。その第一歩は円満な家庭から始まります。」
第01回 「子供との心の関係性は、大人たちの意識の変化が不可欠です。」